【宇宙開発】NASAの新しい火星探査ローバーは、X線を使用して化石を探す
Credits: NASA/JPL-Caltech
NASA公式サイトは9月23日、現在開発が行われている新型火星探査ローバー「Perseverance」に搭載される精密X線スペクトロメーター(以下:PIXL)に関する情報を掲載しました。このローバーはPIXLを使用して、火星における古代の微生物の兆候を探ることが期待されています。
「Perseverance」のミッションとは
「Perseverance」は、火星での古代における微生物の兆候を含む宇宙生物学を主要目的とする新たな火星探査ローバーです。「Perseverance」は、惑星の気候と地質を結び付け、火星の岩石とレゴリスを収集・調査する最初のミッションになります。
「Perseverance」の優れた「アーム」
「Perseverance」は、ロボットアームの先端にPIXLを搭載して、古代(なんと数10億年前の!)の微生物の痕跡(兆候)を探すことができるようになっています。このX線を用いた探査では、AIを搭載したPIXLが使用されます。
PIXLはランチボックスほどの大きさで、2メートルのロボットアームにつけられています。 最も重要なサンプルは、アーム先端のコアリングドリルによって収集され、金属管にしまうことができます。これは、将来のミッションによって地球に帰還する予定です。
Credits: NASA/JPL-Caltech
PIXLを支える脚は、100μm(人間の髪の毛の幅の約2倍)の小さな動きが可能です。これによりPIXLはターゲットをスキャンし、切手サイズの範囲にある化学物質をマッピングすることが可能になっています。
ただし、PIXLは岩石の1点からX線を測定するのに、約10秒程度かかります。その為、切手サイズの範囲をスキャンするのに、約8~9時間もかかってしまうそうです。
ここで問題になるのが、火星の昼と夜の気温差です。この気温差の為、ロボットアームが熱膨張してしまい、スキャンしている位置が変わってしまうそうです。
その為、PIXLでの測定は火星で太陽が沈んでから行う予定になっているそうです。
今までの「火星探査」と「今回の火星探査」の違い
火星の探査はヴァイキング着陸船からスタートし、近年はキュリオシティがその役目を担っています。
従来のミッションにおいても蛍光X線分光計は用いられていましたが、「Perseverance」が搭載するPIXLは、化学物質が岩石の方面全体のどこに、どれほどの量で分布しているのかを検出することが可能です。これにより従来よりも精密な分析を行うことが可能になります。
NASAの主任研究員によると、PIXLのX線ビームは非常に高精度であり、塩粒ほどの大きさの特徴を特定することが可能とのことです。
なぜ火星の岩石に注目するのか?
火星における古代の微生物の兆候を探る過程において、なぜ岩石が注目されたのでしょうか?
その背景には、地球最古の微生物と考えられている「ストロマトライト」の存在があります。ストロマトライトは、シアノバクテリアの活動によって造られ、地球のバクテリア層形成に大きな影響を与えたと考えられています。
もし、火星においてストロマトライトに近しい岩石が発見された場合、火星の生命に関する議論が進展するのではないかと考えられています。そのため、古代の微生物の兆候を探るものとして岩石が注目されているのです。
岩石の分析にX線を用いることに関しても、ストロマトライトが約35億年前から存在し、地球上で最も古い微生物の化石の一部であることが、X線によって判断されたことに由来しています。
「Perseverance」のミッションは新たなミッションの「スタート」
「Perseverance」のミッションは、今後始まる巨大なミッションの一部分でありスタート地点です。
現在NASAは、ESA(欧州宇宙機構)と協力して、「Perseverance」によって収集された岩石・レゴリスを地球に帰還させるミッションの計画などを行っています。
これらのミッションを通して、私たち人類は地球外生命の存在・兆候に迫ることができるのか、今後も目が離せないミッションになりそうです。
文/荒井 碧